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札幌高等裁判所 昭和51年(行ス)6号 決定

抗告人(原審申立人)

有限会社道南開発工業

右代表者

中勉

右訴訟代理人

市川茂樹

外一名

被抗告人(原審被申立人)

北海道知事

堂垣内尚弘

右指定代理人

末永進

外八名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二よつて審案するに、

(一)  まず、本件執行停止申立の本案である札幌地方裁判所昭和五一年(行ウ)第一一号事業停止命令取消請求事件の記録によれば、抗告人は、原告となつて被抗告人を被告として、昭和五一年九月二〇日札幌地方裁判所に対して、被抗告人が同年八月二一日に抗告人に対してなした昭和五一年八月二五日から同年一二月二四日までの事業全部停止処分(以下、「本件処分」という。)を取消す旨の判決を求める訴を提起し、右本案訴訟は目下札幌地方裁判所に係属中であることが認められる。

(二)  抗告人は、本件処分に因つて抗告人が回復の困難な損害を被る虞があり、右損害を避けるため本件処分の執行を停止すべき緊急の必要がある旨主張する。

ところで、行政事件訴訟法による執行停止は、処分取消の訴の提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行に因り生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要を要件とすると共に本案について理由がないとみえるときはこれをすることができないものであるから、本件においては、まず本件の本案について理由がないとみえるか否かの点について判断する。

1  まず、疎明資料及び被抗告人を審尋した結果によれば、次の事実が一応認められる。

(1) 抗告人は、昭和三九年四月三〇日に土木並びに建築資材の製造及び販売とこれに付帯する事業を目的として設立された有限会社であり、昭和四三年一一月二〇日、砂利採取法五条により、被抗告人の登録を受け、昭和五一年八月二一日当時、北海道瀬棚郡瀬棚町字南川四番地において砂利の採取を行つていた者である。

(2) 被抗告人は、昭和五一年五月二八日、件外倉見真美(以下、「倉見」という。)から、北海道瀬棚郡瀬棚町字南川地区内で、抗告人が砂利を採取しているが、被抗告人が抗告人の右地区内の砂利の採取について認可を与えたものか否かについての問い合せを受けた。そこで、被抗告人は、同日直ちに現地に赴き、右倉見と件外本間行雄(以下、「本間」という。)の両名の立会のもとに採取現地を確認したところ、北海道瀬棚郡瀬棚町字南川八六番地、八七番地、九〇番地の各一部の土地が、深さ平均約一〇メートルにわたつて掘られている採取跡地(以下、「本件採取地」という。)が存在することを確認するとともに、本件採取地に抗告人所有の掘削機械が置かれているのを現認した。そして、被抗告人が本件採取地について、その面積と採取量を概測したところ、その面積は2962.75平方メートルであり、砂の採取量は1万4723.1立方メートルであつた。なお、被抗告人は、その際、後日分析依頼の試料として、本件採取地の壁面の三個所から約六キログラムの砂を採取して持ち帰つた。

(3) 被抗告人は、右同日、倉見方において、倉見及び本間から事情を聴取したところ、抗告人が昭和五〇年八月頃から、本件採取地の表土を剥ぎ取り、昭和五一年四月中旬頃には、厚さ約1.5メートルの表土の下の砂部分を順次掘り下げて砂を採取したうえ、瀬棚港から別の砂を本件採取地に運び込んで、同所において、採取した砂と混合し、再び瀬棚港の方面に運んでいることが判明した。そこで、被抗告人は、右倉見及び本間から聴取した事情を参考として、更に倉見から事情を聴取し、瀬棚海上保安署等を通じて調査した結果、抗告人が被抗告人から認可を得て昭和五〇年六月三日から同年九月三〇日までの間に、瀬棚港の港口附近の海底から砂約五万立方メートルを採取したうえこれを同港の物揚場に堆積し、それを本件採取地に運び込んで本件採取地から採取した砂と混合し、これを再び瀬棚港に運び込み、同港から抗告人所有の船舶で他に搬送していることが確認された。

(4) 被抗告人は、昭和五一年五月二九日、件外有限会社加賀谷産業に対し、被抗告人が同月二八日に本件採取地から試料として採取した砂の分析(骨材試験)を依頼し、骨材としての利用の可否についての判定を求めたところ、同年六月一〇日右有限会社加賀谷産業から、本件採取地から採取した砂は、骨材の寸法2.5ミリメートル、比重2.59、吸水量1.80パーセント、粗粒率2.32であつて、骨材として利用が可能な「優良な砂である」との報告がなされた。

(5) 被抗告人は、抗告人が被抗告人の認可を受けることなく本件採取地で砂を採取したことが明らかとなつたため、昭和五一年六月五日、抗告人に対し、砂利採取法二三条二項に基づき、同月三〇日までに、「採取跡を埋め戻し、原状回復をすること。鉄道用地等に飛砂が及ばないよう措置すること。」と命じたところ、抗告人は、右命令に従い、同月三〇日までに、採取跡の埋戻しをほぼ完了した。

(6) 被抗告人は、昭和五一年七月一五日、抗告人に対し抗告人の本件採取地における砂利採取法一六条違反(無認可砂利採取行為)に係る同法一二条の処分を行うため、同月二九日午後一時三〇分から北海道瀬棚郡瀬棚町本町七六七番地所在の「老人と母と子の家」に於て聴聞会を開催する旨決定し、同月一六日到達の書面をもつて抗告人にその旨通知し、同月一七日利害関係人に対してその旨通知するとともに、同月一七日付北海道公報に被聴聞者の住所、氏名、聴聞事由、期日及び場所を告示した。

(7) ところが、昭和五一年七月二〇日抗告人代理人弁護士北潟谷仁から、「同月二九日は代理人において小樽に事件係属ずみ」であることを理由として、聴聞会期日変更の申立があり、更に同月二二日右抗告人代理人から、「抗告人に係る聴聞会については道に期日延期の申立をした。七月二九日には出席したいが予定があり出席できない。七月二二日から七月二七日まで上京するので七月二七日に電話する。」との電話連絡があつたので、被抗告人は同抗告人代理人に対し、「代理人及び抗告人会社代表者が出席できないときは陳述書を提出するよう配慮願いたい。」旨を返答するとともに、同月二三日抗告人に対し、電話でもつて、聴聞会に抗告人及び抗告人代理人が出頭できないときは、陳述書を提出していただきたい旨を連絡し、併せて、同月二四日到達の書面をもつて、抗告人及び抗告人代理人に対し、聴聞会の期日変更の申立は認められない旨をも通知した。

(8) その後、同月二八日午前、抗告人代理人から、電話で「翌二九日午前中小樽での別件用務のため、聴聞会の期日を延期してほしい。」との連絡を受けたので被抗告人としては、その適否について検討した結果、すでに十数名にものぼる利害関係人に対し聴聞会の期日を通知済みであるから、これを変更することが困難であると判断したので、同日正午頃、抗告人代理人に対し、電話でもつて「七月二九日の聴聞会は予定どおり開催する。当日午後瀬棚町に向け小樽を出発することにより遅れるのならば、その間待つことについては考慮している。」旨連絡したところ、抗告人代理人は、「連絡の趣旨については了承した。聴聞手続での争いは避けたいと思うが致し方ないので、中社長も代理人も出席できないと思う。後日再度申立をすることになろう。」との返答であつた。

(9) 被抗告人から聴聞会の主宰者と指名された北海道檜山支庁経済部商工労働課長工藤哲男は、昭和五一年七月二九日午後一時三〇分から、瀬棚町所在の「老人と母と子の家」において、利害関係人倉見、同本間、同加藤茂外一一名の代理人丸山ツエらが出席のうえ聴聞会を開催し、まず、参考人檜山支庁経済部商工労働課商工係長宍戸武俊から抗告人に係る本件無認可砂利採取事案の説明と証拠の提示を求めたうえ、出席した利害関係人らから右参考人に対する質疑が行われたが、抗告人及び抗告人代理人は右期日に出席せず、かつ右期日までに陳述書その他の書面をも提出しなかつた。

(10) 被抗告人は、昭和五一年八月二一日、抗告人に対し、抗告人が昭和五〇年八月から同五一年五月二八日までの間、北海道瀬棚郡瀬棚町字南川八六番地、八七番地、九〇番地の各一部の土地から、被抗告人の認可を受けないで、一万四、〇〇〇立方メートルの砂利を採取し、これが砂利採取法一六条の規定に違反することを理由として、同法一二条により、昭和五一年八月二五日から同年一二月二四日まで抗告人の事業の全部の停止を命ずる処分をした。

2 ところで、抗告人は、本件処分が違法であつて取消を免れないと主張するが、これを要約すると、「(1)抗告人が本件採取地から堀り出した土砂は、砂利分がわずか12.5パーセントにすぎないから、砂利採取法にいう「砂利」に該当しない。(2)抗告人が堀り出した砂利は、他の場所に搬入し、採取跡の穴埋めに使用したにすぎないものであるから、抗告人の砂利の掘り出しは、同法にいう「採取」に該らない。(3)被抗告人が昭和五一年七月二九日に開催した聴聞会は、抗告人代理人の適法な期日変更申立を却下し、抗告人代理人及び抗告人が欠席のまま行われたものであつて違法である。」というに在る。そこで、抗告人らの右主張について検討してみる。

(1) まず、抗告人は、抗告人が本件採取地から掘り出した砂利は、砂利採取法にいう「砂利」に該当しない旨主張する。しかし本件採取地の表土部分の約1.5メートルは土であるが、それ以下の部分はいわゆる砂であり、しかも、本件採取地の壁面の三個所から試料として採取した砂の分析結果によると、本件採取地の砂は、骨材として利用可能な優良な砂であると認められることは、前項の(4)に判示したとおりであり、ほかにこれに反する疎明資料はないから、抗告人が本件採取地から採取した砂は、砂利採取法にいう「砂利」と言わざるを得ない。

(2) 抗告人は、抗告人が本件採取地から砂利を掘り出したとしても、採取跡の穴埋に使用したものであるから、同法にいう「採取」に該らないと主張する。しかしながら、抗告人は、瀬棚港の港口附近海底から採取した砂を本件採取地に運び込んだうえ、本件採取地から採取した砂と混合し、これを瀬棚港に運び込み、同港から他に船舶で搬送していたことは前項(3)に判示したとおりであり、抗告人は建築資材の販売を業とする会社であることは前示のとおりであるから、抗告人は本件採取地から採取した砂を建築資材として販売したか或は自らこれを骨材等に使用したものと推認せざるを得ない。因みに、抗告人会社の代表者である中勉は報告書(甲第一九号証)において、その数量はさて措くとして、本件採取地から採取した砂をいわゆる「砂」として使用したことを認めている。したがつて、抗告人の本件採取地からの砂の採取は、同法にいう「採取」に該るものと認めるのが相当である。

(3) 抗告人は、被抗告人が抗告人代理人の期日変更の申立を却下し、抗告人代理人及び抗告人が欠席のまま行つた聴聞は違法である旨主張する。被抗告人は、抗告人代理人からの期日変更の申立を却下し、抗告人代理人及び抗告人欠席のまま聴聞を行つたことは、前項(7)ないし(9)において判示したとおりである。

ところで、聴聞は、被聴聞者に、被聴聞者の権利・自由の規制に関する行政処分を行わんとする行政庁や対立する利害関係人の主張と証拠に対して、自己に有利な主張と証拠を提出し、行政庁や対立する利害関係人の提出する主張と証拠に反駁する機会を与えることを目的とするものであるから、聴聞主宰者は、聴聞に先立つて、被聴聞者に対し、聴聞の期日、場所及び事案の内容を告知するとともに、聴聞の期日についても、被聴聞者が主張と反論、証拠を準備するのに必要な相当な余裕期間を与え、かつ被聴聞者や代理人が出席することができるような日を指定すべきであり、しかも期日の変更申立にやむを得ない事由があるときには、これを許すべきであることはいうまでもないが、他方期日が或る関係人の都合によつてむやみに変更されることになると、他の関係人の利益を害し或は迅速かつ能率的な行政の運営に支障を来たすことになるから、一旦指定された期日は原則として予定どおり実施すべきものであることも亦当然である。

そこで以上のような観点に立つて本件をみるに、被抗告人は、聴聞期日の一三日前に抗告人に対し、砂利採取法一六条違反の行為に係る同法一二条の処分を行うこと及び聴聞の日時、場所を通知し、抗告人代理人から聴聞期日の変更申立がなされた後もすでに多数の利害関係人に期日を通知ずみであるから期日変更が困難であるとの理由を明示してこの申立を却下し、すみやかにその旨通知するとともに、代理人が出席することができない場合には、抗告人本人が出席するか、出席に替えて陳述書を提出することができることを教示し、さらに、昭和四一年七月二九日の午後には抗告人代理人が同日午前の小樽での用務を終えて後瀬棚町に来るのであれば到着するまで聴聞会の開催時間を延期しあるいは途中で休憩して抗告人代理人が出席する機会を与える旨を告知したにもかかわらず、聴聞会には抗告人代理人及び抗告人が出席せず、かつ右期日までに陳述書も提出しなかつたことは前判示のとおりである。

してみると、抗告人代理人の前記期日変更の申立についてはやむを得ない事由があつたとは認められないから、被抗告人が抗告人代理人の期日変更の申立を許さず聴聞を行つたとしても、聴聞手続に違法な点があつたと言うことはできず、ほかに被抗告人が実施した聴聞について、砂利採取法三八条、砂利の採取計画等に関する規則一三条、北海道聴聞規則に違反する点は見当らない。

(4) なお、疎明資料によれば、抗告人は、昭和四六年五月二〇日頃から昭和五〇年一一月一四日までの間に北海道瀬棚郡瀬棚町字南川六六番地外十数筆の土地から無認可で砂利約三万立方メートルを採取し、昭和四六年五月二六日、昭和五一年一一月一〇日の二回に亘つて被抗告人に始末書を、昭和四六年九月三日に被抗告人に誓約書をそれぞれ提出し、被抗告人から昭和五〇年五月三一日には厳重注意処分を、同年一一月二七日には同年一二月四日までの砂利採取業の停止処分をそれぞれ受けたことが認められる。

3  以上説示したところによれば、被抗告人の本件処分には抗告人主張のような違法の点は存在せず、かえつて、本件事案の内容、抗告人がこれまでに受けた処分の内容等諸般の事情を総合勘案すると、被抗告人のなした本件処分は適法であり、本件執行停止の申立は本案について理由がないものと認められる。

三よつて、抗告人の本件執行停止の申立は、その余の点につき判断するまでもなく失当として却下すべきであり、したがつてこれを却下した原決定は理由を異にするが結局正当であるから、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法四一四条、三八四条二項に則つて本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)

別紙 抗告の趣旨及び理由〈省略〉

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